民法 相続と185条の新権原

司法試験レベルの民法では、事例を処理する能力が問われます。

当てはめも重要ですが、前提に、法律の解釈による要件定立です。
流れよく論じるコツは、順序だって考えることです。

相続が、民法185条の新権原に当たるか、という論点があります。

脈絡なく、
いきなり「相続が185条の新権原に当たるか問題となる」
と論じてしまうタイプの人は、順序だって考えられていません。

貸していた土地を、借主が死んで子どもが相続した場合に、子どもが借りていたとは知らず、所有の意思を持って占有を継続したという事案で考えます。

原告は、土地の所有権移転登記手続きをするよう請求したいと考え、被告は、貸していた土地に所有の意思が認められるはずがないと反論したいと考えます。

原告の請求の根拠は、所有権です。所有権の根拠は取得時効が考えられます。時効取得の要件は、20年間の自主占有の継続です。もっとも、186条1項により自主占有は推定され、同条2項により、占有の継続は、始期と終期の占有を主張すると、20年間の占有の継続という事実推定が働きます。したがって、原告は、自身の占有の開始と20年経過時点での占有を主張することで足ります。

これに対して被告の反論は、自主占有かどうかを争いたいということになります。
所有の意思は、占有取得の権原や事情により、外形的客観的に判断されるとするのが判例です。
原告の占有の開始の原因は相続です。このような場合に、どのような主張をすることで、被告は、原告の占有が他主占有であると争うことができるでしょうか。

ここで、いわゆる相続と新権原と呼ばれる論点に関する判例に触れることになります。

判例は、

1 被相続人の占有していた不動産につき、相続人が、被相続人の死亡により同人の占有を相続により承継しただけでなく、新たに当該不動産を事実上支配することによって占有を開始した場合において、その占有が所有の意思に基づくものであるときは、被相続人の占有が所有の意思のないものであったとしても、相続人は、独自の占有に基づく取得時効の成立を主張することができるものというべきである。

2 他主占有者の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくものであるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を自ら証明すべきものと解するのが相当である。

としています。

つまり、被相続人の占有が所有の意思のないものであった場合でも、相続人が新たに当該不動産を事実上支配し、その事実的支配が外形的客観的に見て独自の所有の意思に基づくものであるときには、相続人の占有は自主占有となるというのです。そして、その立証責任は、相続人にあります。

この判断の理由付けは、次の通りです。
「通常の自主占有の立証責任は、186条1項により他主占有権原(事情)が抗弁に回るのが通常なんだけど」という前提を踏まえた理由付けです。

相続人が新たな事実的支配を開始したことによって、従来の占有の性質が変更されたものであるから、右変更の事実は取得時効の成立を主張する者において立証を要するものと解すべきであり、また、この場合には、相続人の所有の意思の有無を相続という占有取得原因事実によって決することはできないからである。

この判例の示した要件と立証責任の分配から、
1 被告は、原告が他主占有の相続人であることを抗弁として主張することができる。
2 これに対して、原告は、相続により新たに不動産の事実上の支配を開始したこと、及びその事実的支配が外形的客観的に所有の意思に基づくものであることを主張すれば、自主占有が認められる。

という、要件定立ができます。

要件事実的には、以下のようになります。

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