予備試験短答憲法、芦辺憲法で十分いける説を検証

芦辺憲法は、世界で最も読まれている日本国憲法の教科書といって間違いありません。
この芦辺憲法で、予備試験が戦えるかどうか、検証したいと思います。

そこそこ難しかった令和3年の予備試験の短答式試験の憲法ですが、
今回の検証は、これを解くのに必要な記述が、芦辺憲法にあるかどうかで判定します。

第1問

第1問目は、私人間適用に関する○×問題です。

まずは、アから。

三菱樹脂事件の判例知識を問う問題です。答えは、○かと思いきや、まさかの×です。「思想信条自体の申告を求める」×「思想信条に関する事柄の申告を求める」○ だそうですが、トリッキーすぎます。

それはさておき、芦辺憲法に三菱樹脂事件の記載は、もちろん、あります。

芦辺憲法には、

企業は雇用の自由を有し、「特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできず」、また、「労働者の採否決定にあたり、労働者の思想・信条を調査し、そのためその者からこれに関する事項についての申告を求めることも」違法ではない、と判示した

との記述があり、なんとかいけるでしょう。というか、これはそもそも問題がちょっと難しい。

ちなみに、判例百選には、「ただXの思想信条そのものが対象でないことは Y の自由な調査を一層正当化すると解さ れている。」との記述があります。判例は、百選も必要なのでしょうか・・・。いや、むしろ百選を読めというサインなのか??

次にイ。

これも有名な昭和女子大事件です。

このイで、悩みそうなのは、「包括的権能を有する」、「学内外を問わず」「かなり広範な規律を及ぼしても」という部分だと思います。最高裁がここまで強く言い切っていたかな、と悩むわけです。

芦辺憲法にも、昭和女子大事件の紹介はもちろんあります。
事案の紹介に続いて、判旨を紹介する部分で、以下のような記述があります。

最高裁は、①三菱樹脂事件判決を引いて間接適用の立場を明らかにしたのち、②大学は国公立たると私立たるとを問わず「学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設」で、「学生を規律する包括的権能を有する」が、その権能も無制限なものではなく、「在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものである」とし、本件「生活要録」は、「同大学が学生の思想の穏健中正を標傍する保守的傾向の私立学校であることをも勘案すれば」、不合理なものと断定できず、退学処分も懲戒権者の裁量権の範囲内にあるもので違法ではない旨判示した。

この記述からすると、「包括的権能を有する」はカバーできていますが、「学内外を問わず」「かなり広範な規律を及ぼしても」の説示の引用はありません。もっとも、学校側にかなりの裁量が認められた判例であるという印象は記憶に残りそうですので、ぎりぎり正解に導けそうな気もしますが、若干微妙でしょうか。

次にウ。 

これは、国労広島地本事件です。

残念ながら、芦辺憲法には、同事件の記述はありません。したがって、確信をもって○×判定するのは、厳しいでしょう。

強いていうなら、芦辺憲法には、

次のように三井美唄炭鉱事件の判旨を紹介する記述があり

労働組合が特定の候補者を支持する政治活動を行うことは認められるが、それに対抗して立候補した組合員を、勧告または説得の域を超え除名することは、許されない  

強制加入団体である税理士会において政治献金のための特別会費の徴収が無効と判断された南九州税理士会事件についても、以下のような紹介があります。

最高裁は、「政党など政治資金規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなすものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断に基づいて自主的に決定すぺき事柄である」から、それを税理士会が「多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできない」とし、本件寄付は、「たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても」、税理士法四九条二項(現六項)所定の税理士会の目的の範囲外の行為であり、無効であると判示した

これらの判例の傾向から、労働組合において、政治活動の自由に関する組合員の人権を制約するような強制は、許されないという判例の傾向を踏まえて、「どっちかといえば、○」と判断することは出来るかもしれません。

第1問まとめ

第一問を見ると、芦辺憲法だけでは、なかなか難しそうです。
というか、芦辺憲法に、国労広島地本事件の記述がないのは意外です。

判例百選には、当然、これらの判例の搭載はありますし、出題されている判旨部分も、すべて記述があります。

やはり、百選くらいは押さえる必要があるのでしょうか・・・。

続く

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